朝4時。
スマホに届いていたのは、Peachからの欠航のお知らせだった。
羽田から台北へ向かうMM859便。
前の日から羽田に泊まり、温泉に入り、ビールを飲み、あとは飛行機に乗るだけだった。
その飛行機が、ない。
しばらくスマホを眺めた。
さて、どうする。
旅行をやめて家に帰るという選択肢も、もちろんあった。
でも今回の旅は、台北だけではない。台北で一泊したあと、翌日はSingapore Airlinesでシンガポールへ向かう。その先にはコンラッド、そして最後にはマリーナベイ・サンズも待っている。
ここで台北へ行けなければ、その後の旅程まで全部崩れる。
結論は早かった。
意地でも旅行行くー。
台北行きの飛行機を、朝4時から探す
幸いだったのは、行き先が台北だったことだ。
東京―台北は便数が多い。羽田だけでなく成田まで広げれば、まだその日のうちに台湾へ行ける可能性がある。
スマホで空席を探して、ようやく見つけた。
Thai Lion Air SL395便。成田17時40分発。
問題は値段だった。
2人で、
196,579円。
一瞬、数字を見直した。
20万円近い。
もともと予約していたPeachは2人で75,800円だった。
LCCで安く台北へ行くはずが、欠航した朝に、もう一度20万円近い航空券を買うことになった。
でも、これに乗れば旅は続く。
買った。
旅というのは、ときどき判断力がおかしくなる。
羽田から、台北とは反対方向の成田へ
次の問題は空港だった。
僕たちがいるのは羽田。Thai Lion Airが出るのは成田。
羽田空港第3ターミナル10時発のリムジンバスに乗り、成田空港へ向かった。
2人で7,200円。
「台北より高いぞ」
……というのは言い過ぎだが、朝から金銭感覚がおかしくなっている。
前日の夜、羽田で温泉に入っていたときには、まさか翌朝、スーツケースを持って成田へ移動することになるとは思ってもいなかった。

台北へ行くはずが、成田でゴロゴロしている
ようやく成田に着いた。しかし、飛行機は17時40分。まだまだ時間がある。
しかも、この日は寒かった。9月なのに雨で、身体も少し風邪気味。空港を歩き回る元気もない。
そんなとき、成田空港の5階に横になって休める畳スペースがあると知った。
行ってみる。
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僕たちもゴロゴロする。
朝4時に欠航を知り、羽田から成田まで移動してきたというのに、ここへ来てやっていることは昼寝である。
でも、これがなかなかよかった。もっと広ければ最高なのだけれど、長い待ち時間に身体を伸ばせる場所があるだけでありがたい。
この日の僕たちには、観光より畳だった。
成田で昼ごはん
お腹も空いた。

もう何の旅なのかわからない。
体調も万全ではなかったので、空港のドラッグストアではリポビタンDを2本買った。374円。
このあたりになると、もう「旅を楽しむ」というより、夕方の飛行機まで自分たちを運ぶという感じだった。
ラウンジに行ったら、39人待ち
時間はまだある。それならラウンジへ行こう。
ところが、行ってみると――
39人待ち。
みんなPriority Passを持っているのか。
仕方なく近くでコーヒーを飲んで待つことにした。
この日は羽田から成田までかなりの距離を移動しているのに、振り返るとほとんど歩いていない。
バスに座る。空港で座る。畳で寝る。コーヒーを飲んで待つ。
それでも妙に疲れる。
旅では距離よりも、予定が決まらない時間のほうが人を疲れさせるのかもしれない。
ようやくラウンジに入ると、昔ながらの缶ビール一本付き。
何十年も前、まだ自分が若かったころ、空港のラウンジで朝からビールを飲んでいる年配の女性を見て、「朝からビール飲むんだ」と思ったことがある。
そして今。自分が空港のラウンジでビールを飲んでいる。
人生は長い。
本当に飛ぶんだろうな
夕方。ようやく搭乗口へ向かった。

朝4時から何度も航空会社の画面を見続けたせいか、搭乗口に飛行機の便名が表示されているだけで安心する。
「本当に飛ぶんだろうな」
前日までなら、そんなことを考えることすらなかった。
Thai Lion Air。まさか今回の旅行で乗るとは思っていなかった航空会社である。
体調は冴えない。予定より12時間ほど遅れている。追加で20万円近い航空券を買った。
それでも、飛行機に乗った。
もうこの時点では、快適かどうかなんてどうでもよかった。
飛んでくれるだけでありがたい。
そして夕方、飛行機は本当に成田を離れた。

それから13時間以上。
ようやく僕たちは、台北へ向かっていた。
この日ほど、飛行機が飛ぶことをありがたいと思った日はない。
そして僕たちはまだ知らなかった。
大幅に短くなってしまった台北滞在が、思いのほか濃い時間になることを。
次回――「欠航の先にあった、17時間の台北。」


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